アントニオ猪木とタックル技術

先日の記事(参照:男の道は、はぐれ道。)で、

猪木が浜口のタックルを捌く場面を紹介しましたが、
浜口の低いタックルは、

軽く捌いて、

近年、格闘技的見解として、

『猪木にはタックル等のテイクダウン技術がなかった』という論調が、

通説となっています。

 1976年のアントニオ猪木 より

柳澤健
タックルには一瞬にして相手の懐に飛び込むスピード、相手の虚をつくタイミングの良さ、そして何よりも勇気が必要となる。
当時世界最高のプロフェッショナル・レスラーのひとりであった猪木には、グラウンドで相手をコントロールする技術も体力も経験もあった。
だが、相手を倒す(テイクダウン)技術に関しては全くの素人であった。
(略)カール・ゴッチは猪木にタックルを教えなかった。ロックアップから始まる通常のプロフェッショナル・レスリングには必要ないと考えたからだろう。


果たして猪木の技術の中には、

“相手を寝かせる”という格闘技の基本中の基本が、

本当に失われていたのでしょうか?

素人なりに過去の映像と、

自分の記憶を辿ってみたいと思います。

前述した『完本 1976年のアントニオ猪木』の著者、柳澤健氏のインタビューに、

かつて猪木本人が自身のテイクダウン技術を語っています。

 Sports Graphic Number 681 より
アントニオ猪木が語る『1976年のアントニオ猪木』

― アリの上になるためにはタックルしなくてはなりません。でも、船木誠勝さんや金原弘光さんが以前におっしゃってたんですが、新日本やUWFの練習では、タックルはなかったそうです。実際のところはどうだったんでしょうか?

猪木「俺たちのタックルはまた違うんですよね。こっちから飛んでいかない。だからまず組み合ってから
(柳澤氏注:ロックアップ)、外してパッと後ろへ回るとかね。ま、ゴッチ流のタックルですかね」

― (略)たとえばビル・ロビンソンとの試合では、猪木さんが左足にタックルを受けたシーンが何回かありました。でも、猪木さんがタックルに成功したところは見たことがない。失礼な見方かもしれませんが、それはゴッチさんが猪木さんに教えなかったからではありませんか?

猪木「俺の場合はもともと形がないんですよ。関節技は教えられるけれど、アマレスの基本であるタックルだとか、そういうものはやってない。だから俺は自由に変化できるという部分もある。(略)自由に変化して相手が出来るというのは、へんな言い方をすりゃ俺に基本がないからこそでね」


「俺に基本がない」と言い切ってしまうのも凄いですが、

猪木自身がタックルを重要視しなかった事で、

新日→UWF→U系分派…とレスリング出身者が多数いながら、

道場でのタックル練習がおろそかになって来たのでしょうか?

柳澤氏が指摘するロビンソン戦

ウイガン・スタイルのロビンソンのタックルに、
ロビンソンのタックル1

ロビンソンのタックル2

確かに猪木は幾度かのテイクダウンを許します。
ロビンソンのタックル3

逆に猪木が仕掛けたタックルは、

簡単に見切られて押さえられています。
猪木のタックル

これ長州が対Uインターで、よく見せた光景ですね。
長州のタックル封じ

マサさん曰く「3年生が、1年坊主に稽古つけてる」風景らしいです。

同じくレスリング出身の世界王者、バックランド戦では、

猪木がタックルに対するディフェンスを見せます。
バックランドのタックル1

ボブの片足タックルに、
バックランドのタックル2

猪木は俊敏なバックステップ。
バックランドのタックル3

バックランドのタックル4

まさに“動物的カン”ですね。
バックランドのタックル5

そして逆に仕掛けていく場面ですが、

インタビューでも語ってるように、
猪木の片足タックル1

“組み合ってから、パッと外して”入っていきます。
猪木の片足タックル2

…が、思いのほか腰の位置が高く、
猪木の片足タックル3

しっかりガブったバックランドが、
猪木の片足タックル4

上から体重を掛けて、
猪木の片足タックル5

潰してしまいます。
猪木の片足タックル6

アマレスの猛者からは、

簡単にバックを奪う事は出来ません。

これがパワーファイター相手だと、

猪木が思い描くとおりのテイクダウンが見られます。

伝説のS・小林戦(参照:続・格とかパワーの事)です。

半身気味に手四つを切って、
猪木流タックル1

低く踏み込むと同時に、
猪木流タックル2

サイドに密着し、
猪木流タックル3

足をすくいながら、
猪木流タックル4

バックを奪います。
猪木流タックル5

この猪木流タックルは、

伝説のG・アントニオ戦(参照:特殊な団体)のフィニッシュでも使われています。

ゆっくり前に出てくるアントニオをかわしながら、
猪木流タックル①

バックに回ってテイクダウン。
猪木流タックル②

この後に凄絶なKOシーンとなります。

それでも「あくまでもプロレスの試合においてだろ」と言う意見もあるでしょう。

シュートマッチではないのですが、

2000年12.31 大阪ドームでの、

アントニオ猪木vsヘンゾ・グレイシーのEXマッチはいかがでしょうか。

若干実戦的ではありませんが、

ヘンゾの仕掛けた低いタックルに、

猪木はバービーで反応。
ヘンゾのタックルへの対応1

脇を差しながらがぶって、
ヘンゾのタックルへの対応2

素早くバックに周り、
ヘンゾのタックルへの対応3

足首を取って動きを封じます。
ヘンゾのタックルへの対応4

この当時、既に猪木は56歳ですからね。

それでいて、

バリバリのトップ・バーリトゥーダーだったヘンゾのタックルにもしっかり対応。

仕掛けていく方でも、

前記した猪木流タックル。

プロレスとは異なった差し合いから、
ヘンゾへのタックル1

手首を取って動きを制しておいて、
ヘンゾへのタックル2

サイドに回りこみ、
ヘンゾへのタックル3

バックから足をすくいます。
ヘンゾへのタックル4

倒れないと見ると、さらに足を刈っていきます。
ヘンゾへのタックル5

この場面ではテイクダウンにまで至ってはいません。

しかし繰り返しますが、当時の猪木は56歳です。

こういった動きを再確認しても「猪木にテイクダウン技術はない」と言えるのでしょうか?

最後に私自身が目撃した猪木の“実戦テクニック”から…

1997年7.6 真駒内アイスアリーナ(現・セキスイハイムアリーナ)

アントニオ猪木、タイガーキングvs佐々木健介、藤田和之

現役最後の札幌での試合です。

当時はまだキャリア1年弱の藤田でしたが、

アマレスの世界において、全日本学生選手権4連覇、全日本選手権90kg級優勝(1993年)、同100kg級優勝(1995年)の戦歴はずば抜けていました。

当時、まだ体型もシャープで大きな故障もない藤田。

タックルという技術においては歴代の日本人レスラーの中で最高品だったと思います。

残念ながら映像は保有していないのですが、

この試合で猪木に見舞ったタックルのスピードは脳裏から離れません。

しかしそれを正面から受けた上で、

難なく後方に回転して上になった猪木。
猪木流パウンド1

そこから躊躇する事なく、

顔面へのエルボー!!
猪木流パウンド2

これは今のUFCで見られるMMAの高等テクニックじゃないですか!?
猪木流パウンド3

さらに弓を引いて、
猪木流パウンド4

テンプルへ!!
猪木流パウンド5

この日、大きな会場のスタンド席で観戦していたのですが、

冗談抜きにエルボーが当たる“ガツン”という音が聞こえてきました。
猪木流パウンド6

こういった身のこなしや、攻撃と防御は、

以前書きましたTKの評価(参照:アノキ・ペールワン~前編~)にもあったように、それは「道場でのスパーリングでしか得られないもの」

「凄い練習」をして身に付けたものなんですね。

もちろん猪木流のタックルも、

スパーリングに裏打ちされた格闘技術なのでしょうね。

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tag : アントニオ猪木 タックル ビル・ロビンソン ボブ・バックランド グレート・アントニオ ヘンゾ・グレイシー 藤田和之 柳澤健

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Secret

プロレスリングの技術論

大好きです、ハイ。
レガさんから送ってもらったDVDを見て、
書きたかった事にタックルの技術論があるんですが、
書きそびれています(何年経ってだって・・・)。
UWFはともかく、同時期のインター、リングス、藤原組の試合を見比べると、
「タックル」という技がキーでそれぞれの団体の色分け(と言うか試合の組み立て)が
違ってるんです。いつか書きたい書きたいと思ってはういるんですが・・・
m(__)m

レガさん目線で3団体の試合を見比べての記事などもアップしてくれるとうれしいです。
※どの試合を選ぶか非常に難しいとは思いますが。。。汗

>SCSGさん

DVD<あぁ懐かしいですね。
最近はU系の映像見る機会が減りましたよ。

「タックル」という技がキーでそれぞれの団体の色分けが違ってる<なるほど…藤原組は高橋のタックルが印象強いです。
最もレスリングと言う言葉がしっくり来るU系でしょうね。鈴木とか、カズラスキーとかロシア勢も含めて。
インターやリングスは打撃の出来ないアマレス上がりを軽視してたようにも感じます。

レガさん目線で3団体の試合を見比べて<素晴らしいヒントありがとうございます!!
…というか、こんな偉そうに技術論書いてガクさんとかに読んでもらうのって恥ずかしいですよ(滝汗)

No title

さすがレガさん!!素晴らしい企画です!!

ボクは猪木のグレート・アントニオ戦でのタックルは見事だと思っていましたが、猪木のこれが習ったものではないと今回読んで知って、驚きましたねぇ・・・

このタックル、ボクは片足タックルの類で、いわゆる“抜ける片足”というものを猪木がやったんだなと、ずっと思っていたんです。

ちょっとレスリングの話になりますが・・・

“抜ける片足”とは、タックルの軌道は正面からのタックルなんですが、そのタックルに合わせて相手がバービーをし、タックルを切る寸前に仕掛けた方が片足タックルに移行する、というもので・・・

たとえば、ベニア板が縦に立てかけられてあったとします。それが風などで倒れてきてしまったとしたら、もし目の前にいたら当然それを受け止め人は支えますよね。この場合、受け止めた方と倒れてきた方の力がつり合います。つまり支えあっているということです。
でもそれを受け止めようとした瞬間、パッと横に逃げたなら・・・支え合いは成立せず、ベニア板はそのままパタンと倒れてしまいます。

これと理論は一緒で、相手がバービーで切ってくる瞬間に横から抜け、後ろにいってしまうわけなんですね。そうするとアントニオのようにパタンと、こう倒れてしまうわけなんです(^^)

でも、そんな理屈は一緒でも、猪木のこれは片足タックルとも言いがたい感じがしていて・・・一体、どうやっているのかな?と長年疑問に思っていたんです。それが今回明らかになりました。独特のものだったんですねぇ~。自分で編み出したとは、さすが猪木ですね(^^)

ちなみに“抜ける片足”ボクが印象的なのは新生UWFのときに行われた船木vsバックランド(あのドロップキックで反則になった試合)で、船木がバックランドに仕掛けたものです。
このときはレスリング上がりのバックランドがカウンターできなかったほどの鮮やかな、見事なタイミングの抜ける片足タックルなので、もし試合の映像を所有していたら探して見てみてください(^^)

>流星仮面二世さん

レスリング技術の補足、いつもありがたいです!!
こういった本物の技術を知った方々がコメントしてくれる…本当にブロガー冥利につきます。

猪木のグレート・アントニオ戦でのタックルは見事<あれ完全に壊しに行くモードでの動きですもんね。
冷静さとある種の興奮状態のはざまで、ああいったタックルができる猪木は並のプロレスラーじゃないですよね。

片足タックルの類で、いわゆる“抜ける片足”<本当勉強になります。

受け止めようとした瞬間、パッと横に逃げたなら<レスリングも柔道も相手の重心=バランスをいかに崩すかという格闘技なんですよね。
そこから大技につながっていくのですから、それらの延長線上にあるプロレスだって同じ事。
だからレスラーそれぞれがテイクダウン技術持ってて当然ですよね。

ちなみに“抜ける片足”ボクが印象的なのは新生UWFのときに行われた船木vsバックランド<あぁ映像はないんですよね。
すでにビデオ屋にも新生Uのビデオを扱ってるところはなく…船木のタックル技術って高い方なんですか?
私はR・デュランとかM・スミスからテイクダウンとった場面が印象深いです。
紫レガとは?

紫レガ 

Author:紫レガ 
45歳のプロレス話


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