暴風雨の中の風車 Vol.5~捨て身の至宝奪還~(1980)

Vol.4の続きであります。

急速に進化を遂げたスタン・ハンセンの猛威に、

“虎の子”とも言えるNWFヘビー級王座28度目の防戦に失敗したアントニオ猪木
走り込みウェスタン・ラリアート3

まさしく猪木のNWF王座転落は、

1975年3.13 広島県立体育館での、

タイガー・ジェット・シン戦(参照:血で血を洗う信頼感・੪~狂気とストロングスタイル~)以来5年ぶりの大事件でした。
完全フォールで、

しかし猪木の切り替えも超高速です。

2.27 蔵前国技館における格闘技世界ヘビー級選手権試合

“熊殺し”ウィリー・ウィリアムスとの死闘(参照:物騒さ世界一決定戦~中編~同~後編~)を終えると、
完璧な逆十字

王座転落から2か月でのリターンマッチに乗り出します。

1980年4.3 蔵前国技館

NWFヘビー級選手権試合

スタン・ハンセンvsアントニオ猪木


これもまた名勝負だったのですが、

まず試合前に突如出現したのは、

スーツ姿のT・J・シンでした。
突如シンが登場して声明文

猪木とのメキシコでの対戦表明(参照:血で血を洗う信頼感・੬~デスマッチとUWA~)をしますが、

リターンマッチ直前の緊張感を持続させるべく、

猪木は険しい表情で受け流します。
険しい表情で聞く猪木と前田

付き人の前田明までも自然とゴンタ顔ですね。

そしてシンが去ったところで、

王者ハンセンもリングイン。

貴重なNWFのベルト姿ですが、
ハンセンのベルト姿

カウボーイスタイルとの相乗効果で、

なかなか似合いますね。

両国国歌吹奏と試合前のセレモニーを経て、

いよいよ選手紹介です。
アントニオ猪木vsスタン・ハンセン

先にコールされた猪木はガウンを脱ぐと、

雑念を振り払うかの様に目を閉じました。
コール直後から目を閉じて集中する猪木

さあ猪木コールの大合唱の中、試合開始です。

何度かロックアップに入りますが、

その都度ハンセンは組手を嫌ってハンマーパンチ。
猪木コールの中ロックアップを何度も嫌うハンセン

猪木は体を翻して腕折りに持っていきます!!
ならば猪木はショルダーアームブリーカー

これは牽制程度でしたが、

虚を突かれたハンセン、

早くも左腕を痛めた模様です。
早くも左腕を痛めたかハンセン

作戦を変更したハンセンは一転、

密着してのサイドヘッドロックに入ります。
万力の様な腕でサイドヘッドロック

万力の様な腕でグイグイ締め上げますが、

猪木はスッと身を沈めながら左足を刈り取ります。
猪木はレッグシザースでのテイクダウン

ここら辺りの仕掛けが本当に絶妙ですねぇ。

俯せにテイクダウンしたハンセンを、

容赦なくガンガン蹴っていく猪木。
ガンガン蹴っていく猪木

ならば再びラフにシフトを戻したハンセンは、

立ち上がると首筋に強烈なハンマーパンチ。
ハンセンは強烈なハンマーパンチ

猪木はすぐに場外へエスケープしますが、

それ程時間を取らずリングへ戻ります。
一旦場外で間を置く猪木

よく古舘伊知郎アナは猪木を、

『ロープ際の魔術師』と形容していましたが、

実際はロープ際だけに非ず、

『間合いの魔術師』だと思うんです。

いかなる対戦相手に対しても、

間合い=距離感をコントロールする事で攻めても受けても、

自分のペースを崩す事なく主導権を握っていく。

これが猪木の強さの秘訣だったと思うのです。

他にこれを感じたレスラーはジャイアント馬場さんだけですね。

猪木はサイドヘッドロックから、

ホイップしてグラウンドへ移行。
ヘッドロックからホイップしてグラウンドへ、

これをハンセンはやや強引なチンロックで脱出し、
ハンセンはチンロックで脱出、

ハンマーロックで固めておいての、

ニースタンプ連続投下。
ハンマーロックに取ってニースタンプ連続投下

ここでも猪木は場外へ回避する事で、

みすみすと追撃を許しません。
猪木は再び場外エスケープ

リングに戻るとハンセンは、

猪木の髪を鷲掴みしてロープへ飛ばすと、
戻ったところをロープに振って、

ウェスタン・ラリアート!!

…を猪木はなりふり構わず、

間一髪、両手でロープを掴んで回避!!
ウェスタン・ラリアートは猪木がガムシャラに回避!!

ここら辺り、まさに“リング上のスーパーリアリズム”そのものです。

手四つで組み合うと、

当然パワーに勝るハンセンが制しますが、
手四つはハンセンが制すも、

猪木は左足でロックを切り、
猪木が足でロックを切り、

意表を突く延髄斬り一閃!!
いきなり延髄斬り!!

これに面食らったハンセンがコーナーまで追い込まれると、

追っていった猪木はアリキックからストンピング。
一気に蹴りまくるが、

今度はハンセンが場外へエスケープです。
今度はハンセンが場外エスケープ

ここら辺の間の置き方こそまさしく、

猪木から盗み取ったインサイドワークなのでしょうね。

リングに戻ったハンセンは再びラフの仕掛け。

猪木も当然応戦していきますが、
俄然ラフな展開に、

ナックルの構えに対しレフェリーチェックが入ります。
猪木のナックルに対してチェックが入る

この辺のハンセンの駆け引きもさすがですよね。

猪木は片足タックルから、

インディアンデスロック狙いを経て左足を極めに行きますが、

ハンセンもフェイスロックで応戦。
そのまま左足を極めるとハンセンもフェイスロックで応戦、

ここも脱出に成功すると、

その場でジャンプして体重の乗ったニードロップ。
脱出成功と同時にジャンピングニードロップから、

フォールに行くもカウントは2。
フォールに行くがカウントは2

ならば今度はスリーパーから、
ハンセン独特のスリーパーから、

コーナー対角線上を使ったブルドッキング・ヘッドロックで、
秘密兵器ブルドッキング・ヘッドロック、

猪木は顔面からキャンバスに突っ込みます!!
猪木は顔面からキャンバスに痛打!!

これは強烈な一発でした。

さらにスリーパーに来ますが、

むしろ締め込みより首の角度が厳しいですね。
さらにスリーパーの締め込み

しかし柔軟な猪木、

クルッとハンマーロックで切り返して、
猪木が瞬時にハンマーロックの切り返し、

立ち上がったハンセンのアームロックも、
ハンセンが立ち上がって腕を極めに行くと、

難なくハンマーロックに切り返したところで、

ハンセンがロープエスエープ。
猪木はハンマーロックの切り返しでハンセンエスケープ

ブレイクからハンセンは猪木の左足を、

レッグシザースで極めに行きますが、
ハンセンが膝を極めに行くと、

猪木は一瞬で腕ひしぎ逆十字の切り返し!!

ハンセンも即座に両足をサードロープに伸ばします。
ここで腕ひしぎ逆十字からブレイク無視の締め込み!!

それでも猪木はブレイク無視で、

絞り上げて行った為にハンセンは悶絶!

やっと離れたところで顔面へのドロップキック。
猪木のドロップキックに、

ハンセンは敢えて前に出ると、

猪木を捕えてのエルボースタンプから、
ハンセンはエルボースタンプから、

ロープに振って、

ここでウェスタン・ラリアート炸裂!!
ロープに振ってウェスタン・ラリアート!!

モロに食った猪木はエプロンまでエスケープするも、

追いかけたハンセンがその場でブレーンバスター!!
狭いエプロン上でのブレーンバスター、

足場のないエプロン上で受け身を取る事も出来ず、

猪木は左脇腹から激しく落下!!
猪木は脇腹から落下!!

まさに90年代四天王プロレスで見られた攻防や、

現在ケニー・オメガらが見せる危険技の原点ここにあり!!

大きなダメージに猪木は、

苦悶の表情で場外カウントを聞きます。
場外で悶絶する猪木に、

一方のハンセンは返り討ちを確信した、

テキサス・ロングホーンから雄叫び一発。
ハンセンは勝利を確信したロングホーン

猪木コールがこだまする中、

何とかエプロンまで這い上がった猪木に、

ハンセンは全力で走り込んでラリアート狙い!!

2か月前の悪夢が甦るのか!?

…と、ここで猪木がダッキングして回避!!
上がり際のラリアート!! を猪木はかわすと、

勢い余って場外転落のハンセンに、

猪木は躊躇する事なくトップロープに駆け登ると、
場外転落したハンセンめがけ、

そのまま急降下して、

ハンセンの後頭部に右足をぶち込んで行きました!!
猪木場外ダイブ②

解説の山本小鉄さんも、

半ばあきれた様に猪木の荒技に唸ります。

小鉄
「ちょっと危ないですねぇ! 今、ニードロップじゃないですよ。蹴りに行ったんですよねぇ!! だからもし蹴れなかったら猪木選手の方危なかったですよ!」


食ったハンセンはもちろんの事、

いち早くリングインした猪木も信じられない表情。
いち早くリングインした猪木もハンセンも信じられない表情

必死にエプロンまで登るハンセンを待っていたのは、

猪木快心のブレーンバスターでした!!
快心のトップロープ越えブレーンバスターから、

フォールに入るとカウントは3つ!!
カバーに入るとカウント3つ!!

苦しみの中から立ち上がっての王座奪回です!!
苦しみながらNWF奪還!!

いつもならゴングが鳴る中でもうひと暴れするハンセンも、

これには納得したかすぐにリングを降りました。
ハンセンも納得したのかすぐにリングを後に

この一戦におけるハンセンは、

いつの間にか身に着けたインサイドワークを駆使して、

猪木の攻撃をいなす場面もありました。

近年のインタビューにおいてハンセンは、

当時の猪木との一連の闘いをこう表現しています。

猪木50周年本上巻表紙
 アントニオ猪木50Years(上巻) より

ハンセン
「私とイノキは闘うにつれて進化していったと思う」


確かに“進化”という言葉がしっくりきます。

対する猪木も、

いつもならハンセンの暴風雨の様な猛攻に、

後手に回らざるを得ないのですが、

この試合に関しては挑戦者という立場もあって、

やもすればエキセントリックな捨て身のレスリングを展開しました。

アントニオ猪木の証明表紙
 アントニオ猪木の証明―伝説への挑戦 より

猪木
「本来は俺のレスリングスタイルと必ずしもハンセンは一致してなかったと思うんだけど、その『合わないスタイルを調和させる面白さ』があった…」


満員に埋まった蔵前のファンに応える猪木は、

勝利者インタビューのマイクも絶品でした。
ファンの声援に応える王者猪木

猪木
「この前タイトル落とした時はね、相手がでっかく見えてね、いかんせん何かやるとね、それがグーンと跳ね返ってくる様だったんですけどね、今日はしかしね、皆さんの声援もあったしね、立ち合いからね『よーし!』って気になったので」

「シンが何だかんだ言ってますけど」

勢いそのままにタイトル総取り宣言まで飛び出します。

猪木
「メキシコに行って必ずあのタイトル(UWA世界ヘビー)取り返します!! それからぁ!! フロリダ行ってね、バックランドに挑戦ですから、このベルト(WWFヘビー)も持ち帰りますから!! 全部世界中のベルト持ち帰ります!! …ダァーーーー!!」

「とにかく世界中の全部ベルト集めます!! ダーーッ!!」

ちょっとだけ噛みかけながら勢いで言い切った猪木、

このインタビューは本当にかっこいいんですよねー!

互いに進化させつつ調和していきながら、

闘いはさらに次のステージへ…。

Vol.6へ続きます。

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tag : アントニオ猪木 スタン・ハンセン NWF

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こんにちは。いつも楽しく、また興味深く拝読しています。

エプロンに立った猪木へのラリアット。これ、後年の第一回IWGPの決勝戦のホーガンのアックスボンバーとダブりますね。

これだけ見るセンスがあったら、観戦していて楽しいよなあと羨望の思いです。そのおすそ分けをいただいている気持ちです。

>rascalさん

こんばんわ。
いつも読んで頂き、ありがとうございます。

エプロンに立った猪木へのラリアット…第一回IWGPの決勝戦のホーガンのアックスボンバーとダブります<偶然なのか必然なのか、壮絶な散り方という部分では猪木史上1、2を争いますね。

見るセンス<とんでもないです。本当に変態目線でお恥ずかしい限りです(笑)。

そのおすそ分け<いやいや、私の場合はrascalさんみたいな文才がないので、小学校高学年クラスの駄文に過ぎないのですが、出来る限り試合は真っ直ぐに観ていきたいと思っております。
昔の映像からも、今のプロレスラーからも「おおっ!!」という部分が垣間見えれば、そこは見逃さない目でありたいなと思います。
共感して下さったり、あるいは「レガ、何言ってんだよ!」的に批判して下さったり、多くのプロレスファンの仲間がいろんな読み方をして下さると嬉しいです。

No title

ずぅ〜っと以前に、プロマニできりまんさんとの絡みで
「四天王プロレスの原点は?」
の話題になり、悩んだ末に選んだオラの結論は、
スタン・ハンセンだったんですよね。

この記事を読むと、ケニーまで続くハイスパートの原点は、
やはりハンセンで間違いなかったな、と感じました。

この時期のハンセンはいろんなプロレス雑誌で
"ハンセン世界最強説"が書かれてましたねぇ〜。

あ、でもオラは全日時代のラリアート(…いやそこはラリアットになるのかな?)を完全無欠の技として、ありとあらゆるバリエーションで使用したハンセンが大好きです^ ^

>HBKさん

きりまんさんとの絡みで「四天王プロレスの原点は?」の話題になり、悩んだ末に選んだオラの結論は、スタン・ハンセンだった<きりまんさんもお元気でしょうかねぇ~。私がブログを続けてる理由の中に、iらんど時代の旧知の方がプロレスを語れる場でいられれば…という思いもあったりします。
今回、改めて所有している猪木vsハンセンの映像を振り返っているのですが、お互いの技の仕掛けが結構なケニーっぷり(?)なんですよ。そして猪木のパワーにも驚くし、ハンセンのスピードとかジャンプ力にも驚いてます。

この時期…いろんなプロレス雑誌で"ハンセン世界最強説"が書かれてました<あれだけ体重背負ってて、とにかく動きます。それと疾走感が凄い。さらには猪木との抗争でレスリングをはじめとした格闘技術がいくつか見られるんですよね。

オラは全日時代のラリアート(…いやそこはラリアットになるのかな?)を完全無欠の技として、ありとあらゆるバリエーションで使用したハンセンが大好き<そこは大きく分かれるところですが、BKっちと同じご意見の方が大半じゃないでしょうかね? テリー、馬場さん、鶴龍、四天王、幾つもの名勝負を残してきたでしょうから。
私はやっぱり猪木を主役に据えて観てきた部分ありますので、幼い頃に爺ちゃんと一緒に観ていたハンセンの印象が強いんでしょうねぇ。
テーマ曲は『ウェスタン・ラリアート』より『サンライズ』の方が好きかな?

No title

私の四天王プロレスの原点はライガーvs佐野ですかね。最上段からの雪崩式バックドロップ、エプロンから場外へのブレーンバスター等々、ライガーは小林邦昭から「あんな試合してたら、いつか死ぬぞ。」と言われていたそうです。

>aliveさん

私の四天王プロレスの原点はライガーvs佐野<これまた新説ですね!
だとしたらほぼ同世代の他団体間において継承されたという…天龍革命→顔面蹴撃パターンですかね? あるいはaliveさん流に言うなら、阿修羅→キムケンの雪崩式ブレーンバスターパターン???

ライガーは小林邦昭から「あんな試合してたら、いつか死ぬぞ。」と言われていたそう<コバクニなりの警鐘だったのかも知れませんが、本当に明日なき闘いやっていましたよね。
そこに加わったベノワやエディがのちにWWEでアレンジしたものを世界に広げていったのかも知れませんね。

No title

間合い・距離で言うと、私は武藤はこの域に達しているのでは?と思います。
健介にや小川を相手に、ほぼ一方的にやっつけながら、きちんと試合として成立させてる点なんて、芸術的と思っています。

レスリングの幅を広げたこの時代が無ければ、四天王と激戦を繰り広げる事もなかったでしょうね~。

>平田さん

間合い・距離で言うと、私は武藤はこの域に達しているのでは?と思います<武藤も独特の間合いがありますけど、猪木のそれとは別種の様にも思います。むしろ私は三銃士だと蝶野にそれを感じた次第です。

レスリングの幅を広げたこの時代が無ければ、四天王と激戦を繰り広げる事もなかった<全日本では不沈艦を前面に出して、テクニカルな面をかなり省略していたと思います。
それでも時折、見せてた喧嘩テクニックや裏技なんかには猪木の匂いを感じたものです。
紫レガとは?

紫レガ 

Author:紫レガ 
45歳のプロレス話


長州、これは俺のブログだ。

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